大川端だより(451)


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  ◆「行動⇒運動⇒活動」の市民自治サイクル


▼ぼくが関わっている(社福)大阪ボランティア協会は、英語名を、「Osaka
Voluntary Action Center」と称する。和名と英名でこれほど印象が違う団体
も珍しいのではないだろうか。社会福祉法人であることとも相まって、日本語
名はある種の保守的で伝統的(“古臭い”は言い過ぎ…)な響きがある。


▼それに比べて英語名は、和名の「ボランティア」が「Voluntary Action」と
なっており、和訳すれば「自発的行動」ということだから、極めて能動的で、
ある種“戦闘的”な響きさえある。また、「協会」が「Center」となっており、
「ボランタリー・アクション・センター」という名称から受ける印象は、いろ
んな市民的アクション(行動)が渦巻いている中心(センター)といった印象
があるように思う。


▼ボランティアという言葉は、ぼくら60年代の「政治の季節」を経験したい
わゆる“活動家”からすると、政治的な関わりを厭う極めて臆病な人たちとい
う印象もあり、最初は公園の清掃や高齢者施設でお年寄りをケアする善意の人
たちという印象が強かった。だから、社会改革を推進する、というイメージが
なく、現状を気持ちよく保守する立場の人たちだと、偏見も伴って決めつけて
いたところがあった。


▼もちろん、その後の協会との関わりからぼくは、ボランティア活動、市民活
動自体がある種の「市民自治」への取り組みであるという認識をもつに至った
が、今でも世間的にはボランティアを慈善家、ボランティア活動を奉仕活動と
考え、偽善的な人たち、体制内“空気抜き”活動という偏見を持っている人た
ちも多いと思われる。


▼そこで前々から、団体名の変更という課題が協会内にはあり、何回か新名称
模索のためのトーク・セッションも行ったが、古くからの会員の「大阪ボラン
ティア協会」という、1965年設立の伝統的な名称への愛着もあって、なかなか
新名称を名乗るところまではいかなかった。


▼ぼくは、英語名をヒントに「市民行動センター」とか「市民アクションセン
ター」というのがいいと思うのだが、アクションや行動というある種“過激”
な言葉に躊躇する人もあり、また行政や企業の財政的な支援も必要なことから、
社会に対して“過激派”と見做されることに対する危惧もある。そんなわけで、
なかなか満場一致の賛同を得られる、という事態にはならない。


▼ところで、ぼくら60年代の反戦市民運動の経験者は、いつのころからか、
市民運動が市民活動という言葉に変身したことに対する疑念があった。「運動」
と「活動」ではかなり受ける印象が異なる。活動というと、なんとかく奉仕活
動や課外活動を連想し、“ゆるい”なあ、と思ってしまうのである。


▼その点、「運動」というのは、「改革のための息の長い営為」といったイメ
ージがあり、世の中を変えるためには「活動」ではなく「運動」こそが必要だ、
といった思いがあった。英語で言うと、ムーブメント(運動)とアクティビテ
ィ(活動)のニュアンスの違いである。そしてそれに加えて、協会の英語名に
あるアクション(行動)を含めて議論を深めてみよう。


三者の関係をぼくなりにまとめると、発端はアクションであろう。一人もし
くは少数の市民があることに義憤を感じたり、改革の必要性を深く認識して行
動(アクション)を起こす。そして、そのことに対する賛同者が徐々に増え、
地道で息の長い運動(ムーブメント)に成長していく。究極的には、それらの
努力が功を奏して制度(システム)にまで発展し、市民による日々の活動(ア
クティビティ)によって、有効な実践として完遂(アチーブメント)される。


▼実は、「市民自治」というのは、市民のこの「行動⇒運動⇒活動」のサイク
ルのことを言うのではないだろうかと思うのだ。ボラ協でも「自治の学校」と
いうプログラムを提案し、団塊アクションネットワークにおいても「市民自治
を活動のキーワードとしてきた。しかし、どうももう一つ釈然としない、隔靴
掻痒の感覚が「市民自治」という言葉に対してはあった。


▼そこで、辞書や百科事典の類をいくつか引いてみると、正式な定義のある用
語としてはどこにも「市民自治」は載っていないのである。「住民自治」とい
うのは、憲法地方自治法の文脈でブリタニカ国際大百科事典には出てくるが、
市民自治という用語はない。ちなみに同事典によると、「住民自治」とは「地
方行政が当該地域住民の意思に依拠して処理されることをいう」とある。また、
自治」だけなら、「オートノミー(autonomy)」という用語で次のように解
説されている。


▼「自治。同質的な集団ないし団体の意思が、構成員の参加に基づき決定され
ることをいう。イギリスの中世都市はオートノミーを体現していたといえる。
なお、現代においてこの概念は非常に重要視されつつある。すなわち、同質性
の崩壊している現代社会において、オートノミーに基づき人民の政治参加をど
のように拡充するかは、現代民主政治の基本的課題であるといえよう。」


▼どちらにしても、これらは既存の行政と議会、つまり間接民主主義的なシス
テムにおける住民(市民)の意志決定と政治参加についての定義なのだ。しか
し、60年代後半以降のいわゆる“新しい社会運動”においてはもっと直接民
主主義的な市民自治が求められているのだと考えられる。だからこそ、上述し
たようなNPOや市民活動による実践的な市民自治サイクルが求められている
のだ。つまり、直接民主主義的な市民の自覚と行動こそが、制度としての間接
民主主義を支えるのである。市民自治とは畢竟“市民活動”のことである。