大川端だより(480)


白内障手術の記


2011年1月19日に左目の白内障手術を受けた。手術前に、何人かの経験者から術後経過を訊くと、「ものすごく見えやすくなった。早くしたほうがいい」という人と、「ほとんど以前と変わらない。あんまり期待しない方がいい」という人と二極分解の様相だった。医者からも、近眼が酷い人は効果がはかばかしくない場合もある、と聞いていたので、はたしてよく見えるようになるのだろうか……とちょっと心配だった。


手術当日は、準備段階で5分に1回、2種類の目薬を何回も点眼しなければならなかった。そのあと、前の人の手術がかなり長くかかり1時間ぐらいまたされたが、パンツ一丁で手術着に着替えさせられ、手術台へ上がった。


最近の医者や看護士は以前と比べると、格段に患者扱いが上手になり、親切にプロセスの説明をしてくれるので、安心できる。「これから部分麻酔をします」とか「目薬を入れますが、ちょっとシミるかもしれません」など、なるべく患者を安心させようとする心遣いが感じられる。


実際の手術に入ると、「目を動かさないでください」と言われて少し緊張したが、痛みや不快感はない。ただ、森の中で遠くにチェーンソーの音を聞くような、ウィーン、ウィーンという小さな音が聞こえる。電気メスで何かを切除しているのかな……などと考えていた。どれぐらいの時間が経ったのか分からないが、医者が「はい、終わりました」と宣言して、手術終了。後で看護士に手術にかかった時間を聞くと、「20分ぐらいでした」ということだった。


手術後、大きくて不格好な眼帯をされた。風邪予防のマスクもすると、顔がほとんど見えない状態だ。眼鏡をかけにくくて困る。しかし、眼帯は一晩だけで、翌日9時からの検査で取ってもらえるらしい。


次の日、ドクターが眼帯を取ってくれたときに一瞬、モノがかなりクリアに見えたような気がし、こんなに効果があるものか、と思っていると、視力検査をするという。それで、検査室まで歩くため眼鏡をかけた途端、手術した左目がものすごくぼやけて、以前よりかなり視力が落ちているように思えた。ぼくは左右を比べると左目がかなり悪く、視力は0.1以下だったと思うのだが、それよりずっと悪化しているようなのだ。まるで温泉に入って湯煙でモノがぼやけて見えるような感じである。


視力検査では、眼鏡を外したとたん、えらく術後の左目がクリアに見え、逆に近視がゆるいほうの右目がぼやけて見えるのだ。そこでやっと合点した。やはり手術した左目はかなり良くなっており、次週に手術する右目が近視のままだから、そういう逆転現象が起こるのだ。左目の視力検査の結果は、裸眼で0.6だったのでかなり視力は向上したのである。だから眼鏡を外すと、左右の視力がものすごく不均衡でフワフワした変な感じである。


そして、1週間後の26日に今度は右目の手術をした。実は、近視は右目の方がずっと良かったのでかなり期待をしていたのだが、終わってみるとあまり視力が回復しているようには思えなかった。医者は、「左目と同じぐらいの視力になるように眼内レンズを選んでいます」と言っていたが、左目のときのように周りの見え方がクリアではなく、ちょっと近視の度合いがマシになった程度の感じだった。その旨、医者に伝えると、「左と同じぐらいにはなっているはずですけどね……?」というだけで、こちらの見え方が実際どうなっているか医者には分からないから、何とも心許ない。


因に、「白内障」とはどういう病気か、簡単に説明すると、眼球内にある水晶体(レンズ)が混濁した状態のことである。そのため、かすんでモノが見えにくくなったり、明るいところでは極度にまぶしくなることもある。


そのため手術では、超音波を発信する装置を用いて、混濁した水晶体を取り除く。しかし、そのままでは視界が明るくはなるが、焦点が合わない高度遠視の状態になるので、焦点を回復させるため、眼内レンズを挿入する。眼内レンズはアクリル樹脂製で、眼球内で極めて安定した性質を保持すると言われている。しかし残念ながら現在、焦点を合わせる調整力のある眼内レンズがまだ開発されていないため、手術後、焦点を合わせるために眼鏡の助けが必要になる。ただ手術後、眼球内の状態が安定するのに3ヶ月程度かかるので、眼鏡のレンズを調整・選択するのはその後になる。つまり、本当に安定した視力を得るまでに少なくとも3ヶ月かかるのだ。


で、ぼくの今の見え方の状態は、眼鏡をかけずにテレビを見たり、外を散歩することはできるようになったが、小さな文字などは読みにくい。とくに商品説明文などの極小文字は全く読めなかったりする。つまり、手術結果は功罪相半ばする、というところである。しかしそれにしても、パソコン画面の文字が見えにくかったり、書物の活字が読みにくい、というのは不便なものである。