大川端だより(467)


クリント・イーストウッド監督の「インビクタス〜負けざる者たち」という映画をDVDで観ました。モーガン・フリーマン南アフリカの元大統領、ネルソン・マンデラに扮し、マット・デイモンが南アのラグビー・チームの主将役をつとめる映画です。DVDのジャケットでは後ろを向いているのがフリーマンです。映画の内容は、以下のようなものです。


マンデラが27年間の獄中生活を終えたのち、74歳で南アフリカの大統領に就任します。そして、1995年のラグビー・ワールド・カップを同国で開催。南アの代表チーム「ボクス」は白人中心(黒人はたった一人)で弱く、絶対にワールドカップで優勝するようなチームではないのですが、マンデラはこのチームをなんとか優勝させて、国民の一体感を醸成しようとします。


キャプテンをアフターティーに招いたり、チーム員に黒人の子どもたちのラグビー指導をさせたりします。そんな形で徐々にチームにやる気を起こさせ、最終的には決勝戦で、前予想では圧倒的に不利だったニュージーランドオールブラックスに勝って優勝してしまうのです。


イーストウッド監督は的確な映像表現で、マンデラが大統領に就任した当時の状況や、白人と黒人の対立、経済の深刻さなどを描写していきます。


この映画のポイントは、マンデラ政権運営を、ラグビーチームの再建と重ねて表現したことだと思うのですが、もうひとつは、大統領警護のSPの黒白対立をスパイスとして調合したことです。それまでの白人政権を警護し、黒人を監視してきた白人SPたちを、マンデラは「使えるレンガはすべて使って新生南アを確立しよう」と言い、新しい黒人SPのチーフを説得します。そして最初は対立していた白人と黒人の大統領警護スタッフが、ワールドカップにおける警護で、マンデラ大統領を護り抜くことによって、一体感を形成していきます。


イーストウッド監督の映画への意欲は、70歳を過ぎてますます盛んで、完全に世界の大映画監督の一人になりましたね。


最後のラグビーワールドカップの激戦も、映画におけるスポーツ表現の最高レベルと言っても過言ではないと思われます。とくにタックルやモールでの肉体のぶつかり合いは本当に迫力があります。


ただ見終わって感じたのは、権力側のスポーツ利用の怖さです。マンデラが民主的な指導者だったから容認できますが、もしヒットラーのような抑圧的なリーダーだったら、スポーツ・イベントの熱狂を異民族支配のために利用することは十分考えられます。スポーツというのはある意味で疑似戦争なんですね。人間というのはどうしても戦いに熱狂してしまう動物のようです。


因みに、「インビクタス」というタイトルは、下記の詩の題名から取られています。マンデラが27年間にわたる獄中生活において、絶えず励みとしてきた詩だそうです。


インビクタス−負けざる者たち−」

ウィリアム・アーネスト・ヘンリー


私を覆う漆黒の夜

鉄格子にひそむ奈落の闇

私はあらゆる神に感謝する

我が魂が征服されぬことを


無惨な状況においてさえ

私はひるみも叫びもしなかった

運命に打ちのめされ

血を流しても

決して屈服はしない


激しい怒りと涙の彼方に

恐ろしい死が浮かび上がる

だが、長きにわたる脅しを受けてなお

私は何ひとつ恐れはしない


門がいかに狭かろうと

いかなる罰に苦しめられようと

私が我が運命の支配者

私が我が魂の指揮官なのだ