大川端だより(171)

池澤夏樹の大作『静かな大地』を読み終えた。630頁の傑作である。池澤の先祖の淡路島の士族がアイヌモシリ(アイヌの静かな大地=北海道)の静内に入植して、アイヌの人たちと苦労をともにしながら牧場を築き、最後は同胞である和人の嫉妬から滅亡していくという物語である。吉永小百合が主演した映画「北の零年」の原作本だ。


この本を読んでいると、和人とアイヌの関係が白人とインディアンの関係と全く同じであることが本当によく分かる。本国で食えなくなったり、いろんな事情で迫害された人たちが、新しい天地を求めて海を渡る。しかしそこには、人口は少ないが、周りの環境に溶け込み、大地の恵みを有効利用して暮している人びとが住んでいる。


後から来た人間たちは、先住民を未開の「土人」として認識するとともに、武器と法律とだまし討ちを多用して、土地所有の観念を持たない彼らから土地と資源を巻き上げる。そして、「開発」によって徹底的に自然と人を搾取し、その土地独自の環境と文化を破壊しつくす。これが北海道とアメリカ、いやアフリカでオーストラリアで、世界の至るところで起こったことだった。


『静かな大地』において池澤が上記のようなことを声高に主張しているわけではない。しかし、彼の静かな怒りは確実に読み手に伝わってくる。今、この地球は、アイヌやインディアンなど、先住民と呼ばれる人びとの自然に対する考え方、異文化との関係の持ち方、仲間同士の付き合い方、そしてチャランケ(議論・話し合い)を重視する問題解決法など、いろんな面での生き方のスタイルに学ぶ必要があるだろう。