大川端だより(456)


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  ◆B・スプリングスティーンアメリカン・スキン」


▼遅ればせながら、アメリカのロック・ミュージシャン、ブルース・スプリン
グスティーンにハマっている。ブログにも書いたが、つい最近、天神橋筋商店
街をぶらついていて偶然入ったCDショップで彼の三枚組の輸入盤アルバムを
見つけ、定価3千円のものが2千2百円で売っていたので、思わず買ってしま
ったのだ。


▼ぼくら団塊の世代前後の年齢の者にとってスプリングスティーンは、ボブ・
ディランやニール・ヤングビートルズストーンズなど、60年代から70年代
にかけて最も活躍したミュージシャンより少し遅れてきた世代である。1949年
生まれだから、日本流に言うと、団塊世代の殿(しんがり)ということになる
のだが、レコードデビューしたのが73年で、75年の3作目のアルバム「明日な
き暴走」で大ブレークした。


▼おそらく日本でも、このアルバム発売あたりから盛んにFM放送などで、
「ボーン・トゥ・ラン(邦題「明日なき暴走」)」がかかっていたのだろう。
ものすごくキャッチーなリズムとメロディーで、「なかなかエエやん」とは思
ったが、歌詞を詳しく検討したわけではなかった。というか、アルバムを購入
しなかった。この時期にはかつてほど音楽を聴かなくなっていたのだと思う。
まあ、いろいろと忙しかったのだろう。


▼そして、1984年にリリースされた7番目のアルバム「BORN IN THE U.S.A」は、ロック音楽史上に輝く超大ヒットとなった。最初の2日で65万枚を売り尽くし、アメリカ国内だけで1200万枚、全世界で2000万枚以上のビッグ・セールスを記録。この年、彼はグラミー賞の最優秀ロック・ヴォーカリスト賞を受賞した。
アルバム・タイトルと同名の曲は、ブルースの「ボーン・イン・ザ・USA」
の印象的なリフレインのため、ぼくは何となくアメリカ礼賛の歌だと思ってし
まったのである。


あにはからんや、今回買ったアルバムに付いていた歌詞カードを見てみると
礼賛というよりはむしろアメリカ社会批判の感じが強い。他の作品の歌詞を見
ても、アメリカの明るい面より暗い面を歌っている曲が多い。


▼例えば、「アメリカン・スキン」という曲は、99年2月4日にアフリカ西岸
ギニアからの移民、アマドゥ・ディアロが4人の白人警官によって射殺された
事件を題材にしたものである。この曲の出だしは「41(forty one)shots(41
発の銃弾)」というフレーズがあたかも祈りのように静かに8回も繰り返され
る。ウィキペディアによると、この事件の経緯は下記のようなものだった。


▼「1999年2月4日の早朝、ディアロは、食事から戻り自宅近くでたたずんでい
た。 そのときに、近くを通りかかった4人の私服の白人警官が、彼の容貌が手
配中の連続強姦犯人に良く似ているように見えたため、彼を取り調べようとし
た。白人警官たちの主張によれば、彼らは大声で自分たちが警官であることを
アピールした後、身体検査を行うので一歩も動かないように命じた。しかしデ
ィアロは、彼らの警告を無視し、ポケットに手を突っ込んだ。白人警官達は、
ディアロが銃を取り出して自分たちを撃とうとしていると判断し、自分達も即
座に発砲した。白人警官達は合計で41発の弾丸を撃ち込み、うち19発がディア
ロに命中。ディアロは即死した。その直後、警官達はディアロがポケットから
何を取り出そうとしていたのか調べたが、彼のポケットには銃はなく、財布し
か入っていなかった。」


ブルース・スプリングスティーンは、この事件について次のように歌う。
(括弧内の試訳は筆者によるものです)

Is it a gun, is it a knife
(それは銃なのか、ナイフなのか)
Is it a wallet, this is your life
(財布なのか、いや君の人生[命]だ)
It ain't no secret (秘密じゃないよ)
It ain't no secret (秘密じゃないよ)
No secret my friend (ねえ、秘密なんかじゃないんだよ)
You can get killed just for living
(生活しているだけで殺されるかも…)
In your American skin
アメリカ人の皮を被って生きていこうとすれば)


▼同曲はアメリカ社会に多大なセンセーションを巻き起こした。NY市警組合
の幹部は、「事件の傷を癒す時期に、この曲は傷口を開くもの」と反発。警察
官たちに、マディソン・スクエア・ガーデンでのブルースの10回連続コンサー
ト(2000年6月)をボイコットし、会場警備の仕事もしないようにと呼びかけ
た。また、公演の初日にはブルースに感謝の意を表明していたアマドゥ・ディ
アロの両親が招待された。


▼ニューヨーク高等裁判所は2000年2月25日に2日間の審理を行い、黒人と白
人の両方を含む陪審員たちは起訴された警官4人を無罪と判定。判決後、警察
の暴力行為と人種差別に対する大規模な抗議デモが各地で発生した。デモは何
週間も続き、1700人あまりの逮捕者を出す。著名人のデモ参加者も少なくなか
ったという。日本ではあんまり知られていないけど。


▼2000年12月3日、全米有色人種地位向上協会(NAACP)がブルースに、
「ヒューマニタリアン・コミュニティ・サーヴィス・アワード」を授与。直接
的には「アメリカン・スキン」がディアロ事件への社会的関心を高めたことに
あるようだが、彼の長年にわたる様々な社会貢献活動が人道主義的(ヒューマ
ニタリアン)であると認められたのである。白人のエンタテイナーが同賞を受
賞するのは極めて異例のことであるらしい。(この項はウィキペディアのほか、
Sony Music Japan International Inc.の下記HPを参考にさせていただいた)
http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Special/
BruceSpringsteen/history/index.html


▼それにしても、ニール・ヤングの「オハイオ」と言い、ブルースの「アメリ
カン・スキン」と言い、米国のロッカーたちは、楽曲を通じて社会的にプロテ
ストを行うデモクラティックな土壌があるのだろう。日本のスーパースターと
言われるEちゃんやK田くんも、ロッカーを豪語するなら、個人や友人、家族
などの親密圏を超えて、社会的に意味のある楽曲の一つや二つ創ってみんかい!
と言っておこう。