大川端だより(441)


皆さん、連休はどのようにお過ごしでしたか?


ぼくは、何冊か本を読んだり、近場の大阪城公園へ筍ご飯のお握りと卵焼きのお弁当を持ってハイキングに行ったり、のんびりと過ごしました。大阪城公園は、桜の時季を過ぎ、ツツジタンポポの季節になっていました。


読んだ本の中でとても面白かったのは、ヤン・ソギル氏の『ニューヨーク地下共和国(上・下)』(幻冬舎文庫)です。


上下合わせると1千ページを超える長編です。9.11同時多発テロ以降のアメリカがさらなるテロに見舞われ、自由の女神像やブルックリン橋も爆破される、という状況の中で、愛国心を煽り国民を戦争に駆り立てる米政府に対して、ハドソン川に係留したヨットを住処とする建築家の主人公ゼムや仲間の市民たちが闘いを挑む、というストーリー。


「ニューヨーク地下共和国」というのは、自由の女神像を爆破したテロリストたちが名乗る組織名で、イラク戦争の帰還兵や虐げられた黒人たちが主流で、海外からの部外者によるものではなく、アメリカ国内の行き場のない鬱憤が噴出したテロ行為なのです。


彼らは文字通りニューヨークの古い地下鉄路線などの廃坑のようなアンダーグラウンドに隠れ住み、アメリカのエスタブリッシュメントを攻撃するのです。


主人公のゼムは、テロリストにも愛国主義を振り回す米政府にも反対しており、表現の自由などの基本的人権を楯にやむにやまれる闘いを挑むのですが、最後は治安当局に射殺されてしまいます。彼は、18の民族・人種の地が混じっているという人物で、


「わたしには差別やナショナルな意識はない。そうした意識を持つと、私の中のさまざまな血がざわめき葛藤し、体に異変が起き、息ができないほど苦しくなる。わたしは人間という種に属している一人に過ぎない。」というのです。このあたりが、「在日」作家としてのヤンさんの真骨頂だと言えるではないでしょうか。