大川端だより(415)


村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』を再読了。その中で笠原メイという17歳の女の子が使う「アヒルのヒトたち」という言葉がとても印象に残った。彼女が働く奥深い田舎のかつら工場の中にある池にいるアヒルたちのことなのだが、ネイティブ・アメリカンが言う“飛ぶ人たち(鳥のこと)”や“這う人たち(蛇のこと)”と同じ発想だ。うちにもネコのヒトが一人いる。


草木虫魚獣すべてを「人びと」として認識する彼らのアニミズム的な発想はどこか日本人のそれと同類である。ぼくは少年のころから、“インディアン”に憧れていた。西部劇が好きで、映画の中に出てくる白人のカウボーイや騎兵隊よりも、“インディアン”のほうが数段かっこいいと思っていた。


それで長じてから、文化人類学を少し学ぶことになるのだが、“インディアン”の生命観・死生観には大いに影響を受けた。とくに下記の有名なプエブロ・インディアンの詩には共感し、これを読んでから、人が死ぬことについての悲劇性からの心理的脱却が可能となったように思う。拙い和訳ですがよかったら読んでみてください。



今日は死ぬのにとても良い日だ
(Today is a very good day to die.)


すべての生あるものが私と共鳴しあっている
(Every living thing is in harmony with me.)


すべての声が私の中でハーモニーを奏でている
(Every voice sings a chorus within me.)


すべての美しいものが私の目の中で憩うているようだ
(All beauty has come to rest in my eyes.)


すべての悪意は私から去っていった
(All bad thoughts have departed from me.)


今日は死ぬのにとても良い日だ
(Today is a very good day to die.)


私の土地は平穏無事にして私の周りに在る
(My land is peaceful around me.)


私の畑は最後のひと鍬を入れられた
(My fields have been turned for the last time.)


私の家は笑い声に満ち溢れている
(My house is filled with laughter.)


そう、今日は死ぬのにとても良い日だ
(Yes, today is a very good day to die.)


−(From 「Many Winters」 by Nancy Wood,
published by Bantam Dell 1992.
All rights reserved.Used by permission.)