大川端だより(310)


雑誌「ダ・ヴィンチ」の7月号で「梨木香歩大特集」をやっており、ロングインタビュー(…と言ってもそんなにロングではないが)の中で自作について語っている。もうすぐ映画版の「西の魔女が死んだ」が封切られるからだろう。長崎俊一監督作品なのでかなり期待できそうだ。


インタビューの中で梨木さんは、『西の魔女が死んだ』について、次のように語っている。


「この人ひとりにだけ読んでもらえばいい。そう思って書き終わったものを持っていったら、その人は私に何の断りもなく原稿を出版社に持っていっちゃったんですよ(苦笑)」


信じられない話だが、梨木さんは本当に『西の魔女が死んだ』を出版するつもりなどサラサラなく、「この人」、すなわち去年亡くなった河合隼雄さんにだけ読んでもらえばいいと思って書いたそうである。河合氏は梨木さんのアルバイト先のボスだったということだ。


ずっと昔、ぼくらがやっていたミニコミ高村薫さんにインタビューした時も、小説を書いたのは初めて、と聞いて、本当に驚いてしまったが、才能のある人というのはいるものなんですねえ。同人誌で何年もがんばって小説修行をしても芽の出ない人もいれば、たった一冊で世に出る人もいる。


梨木さんが最初に見せた人が河合さんで、河合さんが梨木さんに断りもなく出版社に原稿を持ち込んだことのぼくらにとっての幸せ。偶然だけど必然だったようだ。