大川端だより(297)


大阪城の梅園はいま盛りで、多くの梅見客が訪れている。桃園の花も咲き始めている。


さて、マイブームの梨木香歩だが、写真にある通り『からくりからくさ』『エンジェル エンジェル エンジェル』『りかさん』と読み進めてきて、あらためて振り返ってみると、2月の連休に風邪を引いて偶然家人の購入していた『西の魔女が死んだ』を読んではまってから、すでに8冊を読破している。


この1週間ぐらいで読んだ写真の3冊もいずれも傑作ぞろいである。ところが、ボラ協関係者とかに訊いても、ほとんどの人がこの作家のことを知らない。本当にみんな損をしていると思うので、どんどんこのブログなんかでも宣伝していこうと思う(笑)。それで昨日は、ボラ協の常任運営委員会だったので、新聞記者のM氏に『エンジェル エンジェル エンジェル』を貸してあげた。どんな感想を聞かせてくれるか楽しみである。


さて、『りかさん』というのは人形の名前で、その人形の持ち主である「ようこ」という女の子が主人公なのだが、彼女がおばあちゃんに草木染の色とふつうのTシャツなんかの色との違いについて訊く場面がある。おばあちゃんの答えは下記のようなものだ。


「それは化学染料と植物染料の違いだ。化学染料の場合は単純にその色素だけを狙って作るんだけれど、植物のときは、媒染をかけてようやく色を出すだろう。頼んで素性を話して貰うように。そうすると、どうしても、アクが出るんだ。自分を出そうとするとアクが出る、それは仕方がないんだよ。だから植物染料はどんな色でも少し、悲しげだ。少し、灰色が入っているんだ。一つのものを他から見極めようとすると、どうしてもそこで差別ということが起きる。この差別にも澄んだものと濁ったものがあって、ようこ」(中略)「おまえは、ようこ、澄んだ差別をして、ものごとに区別をつけていかなくてはならないよ」


ようこはおばあちゃんの言っていることを、十分理解しているわけではないが、心に刻んでおくべきことだと感じており、「というしたらいいの」と訊ねる。おばあちゃんの答えはこうだ。


「簡単さ。まず、自分の濁りを押しつけない。それからどんな『差』や違いでも、なんて、かわいい、ってまず思うのさ」


おばあちゃんのこの答えは、以前引用したショウコの美点についての記述と同じものだ。まず「受け入れる」ことの重要性を言っているのだと思うが、注目したいのは「かわいい」である。


日本の男ども(特に中年)はよく、とくに若い女性が「カワイイ」を何にでも連発することを非難するが、梨木の文脈から理解できるのは、ひょっとしたら彼女らの「カワイイ」は「まず受け入れる」という意味の記号なのかもしれない。そうでなくては、メガネの小太りのおじさんや動物園の大蛇に向かって「カワイイ!」という言葉は発せられないだろう。また、女性たちが「韓流」に熱中したのも、日本の女性たちが「まず受け入れる」という美質をいかんなく発揮したからかもしれない、などと、「カワイイ!」のもつ感覚的な健全さを再認識しているこの頃です。