大川端だより(281)


今日の「サンデー・プロジェクト」で、福島県矢祭町(やまつりまち)の「もったいない図書館」について特集をやっていた。人口7千人ほどで地域に書店もない小さな町が、長い間の念願だった図書館を作るために、住民と行政が協働する話である。通常、図書館を作るためには、規模にもよるだろうが、建物建設や図書購入などの費用を足すと10億から20億円という大規模な予算が必要だそうだが、そんな余裕のない矢祭町は、既存の施設を転用し、全国に図書の寄贈を呼びかけて、たった1億円で図書館を作ってしまったのである。


全国の人たちに寄贈を呼びかけて、集まった図書が40万冊以上だというから驚きである。しかし最初は、町が本を購入せず寄贈を受けるだけではなく、郵送料も贈呈者が負担することなども含めて、他の自治体や図書館関係者などから批判があったそうだ。また、企画した町の担当者すら図書が集まるかどうかについては半信半疑だったという。しかしやってみたら、全国からの善意の応援がすごく、1年以内に40万冊の寄贈があったという。もちろん本の整理もボランティアによって担われ、開館後も図書館の運営は住民有志のボランティアに任されている。


住民自治、市民自治の究極のあり方がここにある。なお、矢祭町は、全国に先駆けて「合併しないこと」を町是として掲げた自治体でもある。以下に、「市町村合併をしない矢祭町宣言」並びに「矢祭町自治基本条例」を掲げておく。


市町村合併をしない矢祭町宣言

国は「市町村合併特例法」を盾に、平成17年3月31日までに現在ある全国3,239市町村を1,000から800に、更には300にする「平成の大合併」を進めようとしております。

国の目的は、小規模自治体をなくし、国家財政で大きな比重を占める交付金補助金を削減し、国の財政再建に役立てようとする意図が明確であります。

市町村は戦後半世紀を経て、地域に根ざした基礎的な地方自治体として成熟し、自らの進路の決定は自己責任のもと意思決定をする能力を十分に持っております。

地方自治の本旨に基づき、矢祭町議会は国が押し付ける市町村合併には賛意できず、先人から享けた郷土「矢祭町」を21世紀に生きる子孫にそっくり引き継ぐことが、今、この時、ここに生きる私達の使命であり、将来に禍根を残す選択はすべきでないと判断いたします。

よって、矢祭町はいかなる市町村とも合併しないことを宣言します。

            記

1.矢祭町は今日まで「合併」を前提とした町づくりはしてきておらず、独立独歩「自立できる町づくり」を推進する。

2.矢祭町は規模の拡大は望まず、大領土主義は決して町民の幸福にはつながらず、現状をもって維持し、木目細やかな行政を推進する。

3.矢祭町は地理的にも辺境にあり、合併のもたらすマイナス点である地域間格差をもろに受け、過疎化が更に進むことは間違いなく、そのような事態は避けねばならない。

4.矢祭町における「昭和の大合併」騒動は、血の雨が降り、お互いが離反し、40年過ぎた今日でも、その痼は解決しておらず、二度とその轍を踏んではならない。

5.矢祭町は地域ではぐくんできた独自の歴史・文化・伝統を守り、21世紀に残れる町づくりを推進する。

6.矢祭町は常に爪に火をともす思いで行財政の効率化に努力してきたが、更に自主財源の確保は勿論のこと、地方交付税についても、憲法で保障された地方自治の発展のための財源保障制度であり、その堅持に努める。

以上宣言する。

   平成13年10月31日

       福島県東白川郡矢祭町議会


◆矢祭町自治基本条例

矢祭町は、平成13年10月31日、平成の大合併の波が押し寄せる前夜、全国に先駆けて「市町村合併しない矢祭町宣言」を行った。

これは、矢祭町民の郷土を愛し守ろうとする強い意志の顕示である。
私達は、先人から受け継いだ郷土矢祭町を将来にわたって、子々孫々に引継ぎ、真に人間らしい生活を享受できる郷土を築くために、法令を以って命令されない限り合併をせず、自主独立の道を歩むものである。

ここに、矢祭町の基本的自治権を遵守するとともに、これからの矢祭町を創造するための理念及び運営の基本を明らかにし、もって町民の福利の向上に寄与するためにこの条例を制定する。


第1章 目 標

(適正規模の共同社会)
第1条 矢祭町は、我が国が歴史始まって以来の人口減少を迎える中でも、自立するためのあらゆる施策を講じ、人口減少に歯止めをかけ、適正規模の共同社会を目指す。

(郷土づくりの基本方向)
第2条 子どもは町の宝、国の宝。矢祭町は、恵まれた自然環境の中で、夢をもって子育て・子育ちができる、「元気な子供の声が聞こえる町づくり」に努める。

第3条 矢祭町の青年・壮年の世代は、子や孫達の健やかな成長を願うとともに、社会のために尽くしてきたお年寄りが、尊敬され、大事にされ、安心して生きていける町づくりに努める。

(総合計画等)
第4条 矢祭町は、郷土づくりの基本方向に沿って町の将来の姿を明らかにし、これを総合的かつ計画的に実現するため、議会の議決を経て総合計画を策定する。

第5条 矢祭町は、町基本条例に基づいて運営される町政の基幹的な制度と運営の原則を明らかにするために、行政、議会、町民の役割とその相互関係等を別に定める。
   

第2章 役 割

(町執行部及び職員の責務)
第6条 町執行部及び職員は、町民の信託に応え、町民の奉仕者であることを肝に銘じ、来たるべき団塊の世代の定年退職にも不補充で臨み、事務事業の執行に努める。

(町議会議員の責務)
第7条 町議会議員は、町民の信託を受けた町民の代表である。議員は、町民の声を代表して、矢祭町の発展、町民の幸せのために議会活動に努める。

(町民のあり方)
第8条 すべての町民は、主権者として町政に参加する権利を有する。町民は、町政の主権者として、郷土愛を高め、自らの自治能力を向上させ、町づくりに参画する。


第3章 態 勢

(町財政の健全化) 
第9条 矢祭町は、健全財政を堅持する。人件費や経費の節減をし、以って町民サービスの向上に努め、独立独歩「自立する町づくり」を確立する。     

(町民の参加)
第10条 矢祭町の希望ある将来は、すべての町民の連帯と創造的な諸活動によって確立されなければならない。矢祭町は、町民の不断の努力と連携することによって、魅力ある町づくりを推進する。
  
   附 則
この条例は、平成18年1月1日から施行する。