大川端だより(211)

河合隼雄さんが亡くなった。ぼくは河合さんがまだ国際日本文化研究センターの所長だったときに、一度インタビューさせてもらったことがあった。日文研では他にも、河合さんの前の所長の梅原猛さん、井上章一さん、白幡洋三郎さんなどにも取材した。たしか、河合さんの取材は、時間が小一時間しかなく、おまけに風邪を引いておられて、先生は大変だったと思うが、スムーズに終えることができた。テープに録った話の内容を原稿化してチェックに出すと、たしか加筆や訂正が全然なかったと思う。このことはライターにとっては、ある種の誇りで、あれだけいろんな人と対談して本をたくさん書いておられる人が、自分の書いた原稿にノー・クレームでOKを出してくれたのだから、それはライターとしての腕の証明でもあるのだ。


ぼくはこれまで、いろんな学者、作家、芸術家などをインタビューしているが、そういう方たちの死亡記事に接すると、やっぱり淋しい。社会学者の鶴見和子さんも取材したことがあるが、去年の今ごろ亡くなったし、南方熊楠のお嬢さんの文枝さんももうずいぶん前に鬼籍に入られた。


しかし、一角の方たちというのは、決して偉ぶらないし、ライターに対しても丁寧に接してくださる。ぼくは今までこれらの著名人に取材して嫌な思いをしたことがない。それと、皆さん普通の常識人で、会ったとたんに奇矯なオーラを感じる、というような人はいなかった。横尾忠則さんや桂三枝さんにしても、全く普通な感じの人で、会ってすぐ神秘的なことを言われたわけでもないし、あいさつも「オヨヨ」ではなかったなあ。河合隼雄さんのご冥福をお祈りします。