大川端だより(205)

「梅雨」と書いて「ツユ」もしくは「バイウ」と読むが、日本語では元来、旧暦の五月ごろ降る雨は「五月雨(サミダレ)」と言い、「サ」は陰暦五月、「ミダレ」は「水垂れ」の意味である。そもそもなぜ「梅の雨」なんだろう。実は、梅雨という言葉はもともと漢語で、明の時代にできた言葉のようだ。中国の発音では「メイユー」、それが日本では音読みで「バイウ」となったのだ。


ぼくらは梅雨は日本独特の現象のように思っているが、中国の揚子江流域でも梅の実が熟す頃に雨期があり、「梅雨(メイユー)」と呼ばれるようになった。ただ、中国語では「黴雨」とも書き、文字通りカビ(黴)を増やす雨という意味だったのだろう。黴(カビ)の字は「黴菌(バイキン)」のバイだから、日本語では梅雨も黴雨もどちらも「バイウ」で、中国語では「メイユー」と発音するのだと思う。


「梅雨」を「ツユ」と呼ぶようになったのは江戸時代からだということだ。語源的には、「露(ツユ)」からの連想という説、梅の実が熟してつぶれる時季なので、「潰ゆ(ツイユ、ツユ)」から来ている、との説などがある。「バイウ」という音が「黴雨」を連想させるので、元々あった「ツユ」という言葉で読み、「梅雨」の字を当てたという説もある。ほかにも、梅の実が「ツハル(熟す)」からだとか、カビのせいで物が「ツヒユ(そこなわれる)」からなどの説もあるらしい。