大川端だより(198)

昨日は、姪に誘われて大阪九条の映画館シネ・ヌーヴォへ、オリバーー・ストーン監督の「コマンダンテ」を観に行ってきた。キューバ共和国国家評議会議長フィデル・カストロにストーンがロング・インタビュー(取材は30時間にも及んだ)するドキュメンタリー映画だ。シネ・ヌーヴォは、できたときに創設者の一人であるMKさんに取材させてもらったし、映画も何回か観に行ったことがあった。


シネ・ヌーヴォという小屋のいいところは、まず照明が暗いことである。最近の映画館は、痴漢客への警告なのか、上映中もかなり明るい照明を灯しているところが多い。しかしやっぱり、映画は真っ暗な劇場で観たいと思う。その点、さすが映画好きが作った小屋だけあって、その辺りの配慮は行き届いている。


さてこの映画は、率直に言ってかなりの傑作である。カストロの人柄がストーンのたくまざる(実はかなり巧んでいるのかも…)、時には無礼とも思えるストレートな質問にカストロはとても冷静に答えていく。例えば、「好きな女優は?」という質問に、少し考えてから、「ソフィア・ローレン」と「ブリジット・バルドー」という答えを返す。


映像的にはとてもクローズアップの多い作品である。とくに、あたかもカストロの答えの真偽を確かめるような目のアップのカメラワークは印象的である。しかしカストロの目は、ハリウッドの映画監督の猜疑心を軽くいなすように理性的な色を変えない。


ストーンが「名誉」について質問したときに、カストロが「そんなものは全く欲しいと思わない」と答えたあと、その理由を、「いずれ人類も、太陽も消滅してしまうのだから、そんなものに固執することに何の意味がある」と言ったのがとても印象的だった。カストロの思想の底流に流れているこの“ニヒリズム”は信用できると思った。


これこそ極東のキム帝国が持っていないものであろう。根源的なニヒリズムを持たない権力者は、自分の巨大銅像をつくらせたり、息子に地位を世襲させたりする。しかし本質的な感覚として、根源的なニヒリズムを胸のうちに秘めている者は、彼が政治家であろうとなかろうと、永久に“自己”を永らえようとする試みに何の意味も認められないのだ。


この映画を観ているとカストロという人間が非常に知的で、ユーモアを理解し、人々を思いやる心を持っている人間であることが分かる。そして、革命から40年以上を過ぎて、金融帝国・アメリカの裏庭に存在し続けるキューバが、その成果を確実なものにしていることがよく分かる。文盲率は大幅に減り、医療は充実し、人びとは飢えてはおらず、けっこう幸せそうに暮している。


この映画のパンフレットに「アメリカが上映を拒絶した問題作」というキャッチコピーが書かれているが、米国の支配層が恐れたのは、決して共産主義思想や武力ではなく、街中で人びとから「コマンダンテ!(司令官!)」と親しく呼びかけられるカストロの人間的魅力と、自分たちがキューバに関してついてきた嘘がバレることだろう。アメリカのフツーの人びとがこの映画を観て、カストロキューバに親しみを感じることを恐れたのだ。ケツの穴の小せえ奴らだゼイ(笑)。