大川端だより(178)

昨日の夜、NHKの番組「プロファッショナル」で、グーグルの経営者エリック・シュミットがインタビューを受けていた。この番組は、各分野でリーダーシップを発揮しているプロフェッショナルたちを取材するもので、たまにチャンネルを合わせると最後まで見てしまう。昨日の番組は、普通なら一人しか取り上げないのだが、前に見た何人かが出ていたので、総集編のようなものだったのかもしれない。


最後にエリック・シュミットのインタビューがあったのだが、とても今をときめくインターネット企業の大物には見えなかった。地味で学校の先生みたいな人だ。アップルのスティーブ・ジョブズマイクロソフトビル・ゲイツのようなカリスマ性があるようにも見えなかった。ところが話を聞いていると、カリスマ性がないことこそが彼の新しさであり、新しいリーダーシップのあり方を体現している人物のように思えてきた。


彼のインタビュー中の言葉で印象に残ったものがいくつかあった。例えば、「個人より集団のほうが賢いと思っている」というのがあった。それから、「聞くほうが大事だと思う」という言葉。つまり彼は、グーグルという企業は、一人の天才が画期的なアイデアを考え出して今までにない商品を創り圧倒的なシェアを占めていく、というタイプの企業ではなく、それぞれ優秀な社員たちが、いろんなアイデアを考え出し、それらを融合させてマジックを起していくタイプの会社だということだ。そしてそれをお膳立てし、「融合のマジック」を起す触媒となるのがエリック・シュミットなのだ。


リーダーシップのあり方がここ数年で画期的に変わってきた。それこそ戦国時代の信長のような、ディクテイター(独裁者)型のリーダーシップは急速に古びていっている。信長一人と何人かの参謀だけに情報を集中させて強力なリーダーシップを発揮していくタイプだ。当時は、リーダーシップの源泉は情報だった。情報をもてるのは一握りのリーダーだけだった。こういう時代が、つい最近まで程度の差はあれ続いていたと思う。


ところがここ10年、いやこの2〜3年、圧倒的なインターネットと検索エンジンの発達、進化によって、情報はみんなのものになった。その結果、情報は権力やリーダーシップの源泉ではなくなったのである。みんなが情報を共有しているから、今度はそれらをいかに融合させて新しいコンセプトやシステム、サービスや商品を創り出せるかが勝負の分かれ目となってきたのである。


そういう目で、エリック・シュミットの言葉をもう一度噛み締めると、リーダーシップのあり方がディクテイター型からファシリテイター型に一気に転換していることが分かる。「個人より集団のほうが賢い」のだから、リーダーは自分で情報を集めて研究したり、オリジナリティを発揮したりするより、みんなの声に耳を傾けて、新しいアイデアの萌芽をたくさん見つけ、それらの融合を促進するように、お膳立てする能力がもっともリーダーに必要とされるものになったということである。