大川端だより(135)

神奈川県に大和市という自治体がある。市民と行政が協働して自治基本条例をつくったことで有名だ。『ドキュメント・市民がつくったまちの憲法大和市自治基本条例ができるまで〜』という本にもなっている。大和市にはもう一つ非常に優れた、分かりやすい条例がある。おそらく日本でいちばん進んだ市民との協働についてのコンセプトだと思うので、以下に全文を紹介しておこう。


大和市新しい公共を創造する市民活動推進条例

大和市議会平成14年第2回定例会(6月)で可決・成立 

前文
 私たちのまち大和市には、子ども、大人、障害のある人、外国籍の人などを含め多くの市民が暮しています。市外からの通勤や通学などによる広い意味での市民もいます。
 そこには、市民の数だけ多様な「私」がいて、多様な価値観があります。大和市は、それらを互いに受け止め、認めあえる、誰もが自由で健やかに過ごせる地域社会でありたいものです。
 一人ひとりの暮しの中には、「私」だけの問題からみんなの問題へと、「公共」の領域へ拡(ひろ)がっていくものがあります。そのような問題を、私たちは長い間、行政だけに委(ゆだ)ねてきました。その反省から、この10数年、福祉や環境、教育、国際交流など「公共」の領域に参加する市民や市民団体が急速に増えてきました。事業者も、地域に役立つ活動や市民との連携に目を向け始めています。
 行政により担われていた「公共」に、市民や市民団体、そして事業者も参加する時代が来ています。「私」を大切にするために様々な選択肢があることが普通のことになってきました。
 このように、多様な価値観に基づいて創出され、共に担う「公共」を、私たちは「新しい公共」と呼びます。
 市民、市民団体、事業者それぞれが所有する時間や知恵、資金、場所、情報などを出しあい、社会に開けば、それはみんなのもの「社会資源」になります。行政も自ら資源を開き、「社会資源」の形成に参加することが求められます。市民、市民団体、事業者にとって、「社会資源」は「新しい公共」に参加する活動の源であり、未来を生み出す糧となるのです。
 この条例は、市民、市民団体、事業者そして行政が自らの権利と責任のもとに対等な立場で協働し、「新しい公共」を創造するための理念と制度を定めるものです。
 私たちはこの条例による制度を活用し、多くの市民、市民団体、事業者の参加により、一人ひとりの「私」を大切にしながら、共に育ちあえる、みんなが共生するまち大和市を実現していきます。

(目的)
第1条  この条例は、市民、市民団体、事業者及び市の協働により、新しい公共を創造するための基本理念及び基本的事項を定め、もって多様な価値観を認めあう豊かで活力ある地域社会の実現に寄与することを目的とする。

(用語の意義)
第2条  この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 新しい公共 市民、市民団体、事業者及び市が協働して創出し、共に担う公共をいう。
(2) 市民活動 市民、市民団体及び事業者が行う自主的な活動で、次のいずれにも該当するものをいう。ただし、宗教及び政治に関する活動を主たる目的とするもの並びに選挙に関する活動を目的とするものを除く。
 イ 新しい公共に参加する意思のある活動
 ロ 多様な価値観を認めあう活動
 ハ 営利を目的としない活動
(3) 市民団体 市民活動を継続的に行う非営利団体をいう。
(4) 市民等 新しい公共に参加する意思のある市民及び市民団体をいう。
(5) 事業者 営利を目的とする事業を行う個人又は法人で、新しい公共に参加する意思のある者をいう。
(6) 社会資源 情報、人材、場所、資金、知恵、技等の市民活動を推進するために必要な資源をいう。
(7) 市民事業 市民等及び事業者が行う社会に貢献する自由で継続的な市民活動をいう。
(8) 協働事業 市民等、事業者及び市が、お互いの提案に基づいて協力して実施する社会に貢献する事業をいう。

(基本理念)
第3条  市民等、事業者及び市は、相互理解を深めながら対等の関係で協力・連携し、新しい公共の創造に貢献する(以下このことを「協働の原則」という。)。
2 市民等、事業者及び市は、協働の原則に基づいて市民活動を推進する。

(市民等の役割)
第4条  市民等は、その自主性及び自己の責任に基づいて、新しい公共を創造するための活動を行う。
2 市民団体は、その活動に伴う社会的責任を自覚するとともに、開かれた運営を行い、当該活動への市民の理解及び参加の促進に努める。

(事業者の役割)
第5条 事業者は、新しい公共の創造に関する理解を深めて、積極的に社会資源の提供に努めるとともに、その社会的責任に基づいて市民活動を推進する。

(市の役割)
第6条 市は、市民活動を推進するための総合的な施策を実施し、市民等及び事業者が新しい公共を創造するための環境づくりを行う。
2 市は、市民等との協議のもとに、市民活動を推進するために必要な情報の公開を徹底し、継続的な自己改革を進める。
3 市は、市の施策や計画等の策定に当たり、早い段階からの市民参加を促進する。

(相互の信頼関係)
第7条 市民等、事業者及び市は、お互いの信頼関係を育(はぐく)むために、協働の原則に基づいて、対話し、交流し、学びあう。

(社会資源の活用等)
第8条 市民等、事業者及び市は、それぞれが社会資源を活用し、創出し、提供する。
2 市民等、事業者及び市は、前項の社会資源の活用等を進めるために、自発的な意思表明が可能な場や機会の充実に努める。

(協働の拠点)
第9条 市民等、事業者及び市は、協働の原則に基づき、それぞれの役割分担に応じて、社会資源の充実を図るための協働の拠点(以下「協働の拠点」という。)を設置し、その充実に努める。
2 協働の拠点は、原則として市民等がその運営を担う。

(市の施策)
第10条 市は、協働の原則に基づいて次に掲げる施策を推進する。
(1) 新しい公共の創造に関する市の施策の体系化を進めること。
(2) 施策の実施に当たり市民等との協働を進めること。
(3) 市職員に対して新しい公共の創造に関する啓発や研修等を行うこと。
(4) 協働の拠点が機能するよう、必要とする市の社会資源を提供すること。
(5) この条例に基づく施策の実施状況について公表すること。
(6) 前号に定めるもののほか、行政評価の結果及び施策の実施状況に関する行政情報を公開すること。

(市民事業)
第11条 市民等及び事業者は、誰もが生き生きと暮らせる地域づくりのために、自主的に市民事業を行う。
2 市民事業を行うに当たり市民等及び事業者は、前項の目的達成のための交流や市との連携を望む場合に、その自主性に基づいて市長に届け出ることができる。
3 市民等、事業者及び市は、社会資源を必要とする市民事業に対して、それぞれの役割分担に応じて社会資源を提供するよう努める。

(協働事業)
第12条 市民等、事業者及び市は、協働の原則に基づいて協働事業を行うことができる。
2 協働事業の実施に当たっては、市民等、事業者及び市長の間で当該事業に関する基本的事項を定めた協定を締結する。
3 協働事業を行おうとする市民等及び事業者は、市長に登録する。
4 前項の規定により行った登録は、市長が規則で定めるところにより取り消すことができる。
5 協働事業の内容等については、協働の原則に基づいて別に定める。

(市の施策や計画等への提案)
第13条 市民等は、新しい公共の創造に関する市の施策や計画等に関する意見又は協働事業について、次条に定める協働推進会議へ提案できる。
2 前項の提案があった場合は、協働推進会議が公開の場での協議を行ったうえで意見書を作成し、当該提案とともに市長へ送付する。
3 市長は、前項の提案及び意見書の送付を受けた場合、その内容を施策や計画等に反映するよう検討しなければならない。
4 市長は、前項の検討結果に関し、説明する責任を負う。

(協働推進会議)
第14条 この条例に基づく具体的手続や運用に関する事項その他新しい公共の創造に関する事項を調査審議するため、協働推進会議を置く。
2 協働推進会議は、公開とする。
3 協働推進会議に関する事項は、協働の原則に基づいて別に定める。

(委任)
第15条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、別に定める。

   附 則
 この条例は、平成14年7月1日から施行する。