たくさん知恵がつまったステキな本です

ボランティア・テキストシリーズ⑲
『語りの時間』(著者:錺栄美子・禅定正世・小林康代 発行:(社福)大阪ボランティア協会)※ご注文は⇒http://www.osakavol.org/books/subscr/booksub.htmlよりお願いします。


A5判150頁ほどのブックレットですが、実に内容が豊かな本です。本書には、お話ボランティアの活動をつくり、そだててこられた三人の著者による「語りのすすめ」という趣がありますが、本書の魅力は、「語り」について述べているのだけれど、とても普遍的な内容であることです。だから本書は、語りのハウツーではなく、話すこと、聴くこと、コミュニケーション、教育、人間が成長するということなどの本質が語られています。


また、本書はボランティア・テキストシリーズ⑲でもあり、ボランティア活動の本質が理解できるのではないかと思います。ことの妥当性は抜きにして、ボランティア活動をサービスタイプとアクションタイプに分ける考え方があります。前者は、例えば、高齢者施設での活動や公園に花を植える活動などで、後者は、例えば、車椅子の人たちがバリアフリーのまちづくりに関わっていく、というような活動です。換言すれば、社会奉仕的な活動と社会変革的な活動とでも言えるでしょうか。


ふつうに考えると、お話ボランティアというのはサービスタイプの活動だと思うでしょう。しかし、本書を読むと、そのような二者択一的な考え方がひじょうに浅薄なものだと思うようになります。お話をしたり、絵本のよみきかせをすることは、ただ子どもたちを楽しませるだけではなく、実は子どもたちを変えることでもあるのです。


現在の「子どもの危機」の最大の要因は、人間的な好ましいふれ合いの欠如にあると思われるのですが、お話ボランティア活動はその部分をうめる、ある意味で“大きな活動”であり、社会的な活動であるということが大変よく分かります。


また、著者たち自身が活動を通じて精神的に成長していることが読んでいてよく分る点もボランティア・市民活動の本質を表していると思います。錺さんは、「目を見て、わかりやすいお話を丁寧に届けながら、たくさんの人たちと毎週心の交流ができるのは、私の人生の宝物と思っています」と書き、禅定さんは、「お話を語る。お話を聞く。どちらも、心の成熟には役立つように思えます」と述べています。