大川端だより(7)


どんなものにも光と影がある。光は分かりやすいが、影は陰(蔭・翳)とも書き、ちょっと分かりにくい。「影」とは光を遮ってできる黒い形のこと。また、「陰」は光の当たらないところ、見えない部分のことである。


谷崎潤一郎の『陰翳礼賛』は、光の部分よりも陰の部分を重視し愛でるのが日本の文化だという論旨だが、この場合の陰翳は、「色・音・感情などに微妙な変化があって趣が深いこと(スーパー大辞林)」という意味だろう。この論考の中で谷崎は、盛んに日陰に位置した日本式の木の厠のことを礼賛し、西洋式の白いぴかぴかのトイレを嫌悪しているが、この辺りの感覚はもう今の日本人には分からない。


ただ、現代の日本人は光のあたる部分にのみ注目する傾向が強いと思うが、確かに物事には光と影があるのだから、両方ちゃんと見たほうがいいのでは…と大川端の光と影を見ていて思った次第である。